堺谷徹宏の
グルマン365

ようこそグルマン365へ


子供が幼かった頃にオートキャンプによく出かけた。その時初めて率先して炭火で食べ物を焼いた。正直あまりうまくいかなかった。火が暴れるからだ。食べ盛りの息子2人と夫婦の計4人がワイルドなアウトドアの食事を楽しめるよう、豚バラや牛カルビなど火が入るほどに脂がどんどん出てくるものばかりを買い込んだ。息子たちが空腹を訴えだしたので、ジェル状の着火剤を慌てて炭や焚き木につけて、小さく丸めた新聞紙などを入れ込みすぐに火をつけた。火はあっという間に大きくなったが、燃えて灰になった新聞紙が風に煽られて舞い、近くに置いてあった食料や調理器具の上を汚した。焚き木が燃え、炭に火が移ったのを確認して肉を焼き始めたが、焦げて黒ずんだり、生焼けだったり、落ちた脂で炎が大きくなって火傷しそうになったりとさんざんな食事になった。後に学んだ。焚き火台に仕込んだ炭に火がつき、少し深いところまで赤くなって少し離れたところでも強い熱を感じるようになるまで、要するに遠赤外線が出てくるまでじっくり待つ。ぼく自身がまだ若く、辛抱できなかった。辛抱できない者は火を操ろうなどと思ってはいけなかったのだ。

それから15年がすぎた。火は寒い間ももちろん嬉しいし、優しい。しかし、芯まで冷えないくらいの寒さのほうが身も心も楽に感じるようになっている。そんな季節に家の狭い敷地の隅でもこっそりと使えそうな小さな焚き火台を買い、ひとりで嬉々として夕方から火を起こした。もう、豚バラや牛カルビは載せない。できるだけ乾いているもの。解凍ものならばできるだけ水気をとった状態にする。かくして選んだのはヤリイカ。着火した炭のそれぞれが半分以上赤くなって大きな炎が上がらず、遠赤外線を放ち始めて安定するまでじっと待つこと約1時間、一気にヤリイカを網の上に並べた。じゅうじゅうと旨そうな音がしない代わりに、よく耳を澄ますとしゅうっという静かな音が聞こえる。ヤリイカの身に熱が少しずつ入っていく音だ。かみさんも合流。あっという間に焼き上がった。香ばしくて美味しいと喜んでいる。お湯割りの焼酎によく合う。子供の頃の縁日の焼きイカとは趣の異なる、大人の焼きイカ。季節の美味しいものを美味しいままで食べられる幸せを噛み締めながら、ぼくが惚れ込んだ美味しいものをまたご紹介します。

堺谷徹宏

堺谷徹宏

堺谷徹宏 プロフィール
グルマン・ゴーズ・トゥ・トウキョウ株式会社代表取締役。1960年北海道生まれ。明治大学文学部を卒業後、出版界へ。サラリーマン向け雑誌やモノ・カタログ雑誌、女性誌、単行本などの編集を経て、食品の通販事業に携わる。バイヤーとして全国をまわり、地域産品を掘り起こしてカタログで紹介・販売するだけでなく、富裕層へ向けたオリジナル商品の開発と販売にも注力。後に、カタログやWEBページのコピー執筆やビジュアルディレクションを通して、購買客へ美味をわかりやすく楽しく伝えることを主眼に置き、フードデザイニストとして独立。バイヤー、コピーライターとしての技も磨きつつ、隠れた美味を探しに今日も東へ西へ。
●お仕事のご依頼などはメールにてお願いいたします。tetsu.sakaiya@gmail.com

2022.3.22掲載

バイヤー堺谷徹宏(さかいやてつひろ)の
おすすめ商品セレクション

大つる(大阪市生野区)の
淡甘うすあまあずき煮


これはあんこではなく、
あずき煮という料理

このあんこは実に美味しい。

などと言うと、たぶん開発した大つるの澤井妙子さんには叱られると思う。これは、あんこではなくあずき煮ですよと。あんことは詰め物で、皮のような外側がなければ成立しないもの。このあずき煮は、小豆の品種としては高い品質とそれ故のブランド価値で知られている兵庫県産丹波大納言と上白糖の5〜10倍の価格にもなる香川県産和三盆、それにわずかの食塩の3つの材料だけをよく手入れの行き届いた銅釜でじっくり炊いて仕上げたあずきの煮物。皮の中に詰めるのではなく、そのままいただくのが前提なので器に盛ったときの見栄えにまで配慮がある。小豆の粒が生き生きとしているのだ。開封してボールに出してスプーンでほじくると、小豆の粒がペースト状のあんの中にいくつも入っていて、きらきらと光っているのがわかる。控えめだけれど、しっかりと光を放つスターがいる。それをきちんと支えて引き立てるバイプレーヤーもいる。シンプルな構成の舞台。でも、見応えのある二人芝居。ひと口食べてそっと噛むと思わずため息が出た。甘くてほっこりしている。ふくらみのある甘さ。さっぱりしていてベトベトしていない甘さ。粒感がまたいい。しっかりとふっくら甘く炊き上がっている。ペースト部分も嫌味がない。いつまでも食べていたくなる。食べていると幸せな気持ちになる。だから、これを最初からあんこなどと言ってはいけないのだ。


うすあまあずき煮

銅釜で炊き上げるのは、美味しくするため

大阪市生野区、JR大和路線東部市場前から徒歩で7、8分。敷地面積が10万平方メートルを超える広大な東部市場の脇をすぎ、路地を曲がって住宅街に入ったところに大つるはある。民家風に見えたが、中に入って驚いた。製造工場も事務・営業セクションも全部入った食品メーカーがそこにあった。もっと驚いたのは工場内の主要な場所にカメラが設置されていて製造風景が事務・営業セクションですべて確認できるようになっていること。おせち作りが始まっており、1年のうちでもっとも忙しい時期であったが、「あまりちゃんとお相手できないかもしれませんがよろしければどうぞ」と温かく迎えてくれた。カメラ越しに見る従業員の人たちは皆黙々と作業をしているが、熱気が伝わってくる。銅釜が全部で7基。大つるで作る煮物のほとんどをこの銅釜で炊く。銅は熱伝導率が高いので、釜内部が均一な温度になり、材料にむらなくきちんと熱や味が入っていくという。銅だから手入れが大変でしょうとたずねると、

「大変ですけど、銅釜で炊くと美味しくできますから」

   

とのこと。美味しさのためには労を厭わない。そこに決定的な差が生まれる。材料も徹底的に選び抜いた。調理道具もすばらしい。さらには手間隙をかけることで材料に作り手の「気」のようなものも入っていくはず。これは美味しくなるはずだ。

和三盆があずき煮を完全無欠の和のスイーツに押し上げた

開発段階で小豆と砂糖の種類を変えて何種類もの試作品を作った。そこには開発者の最高のあずき煮を作りたいという強い思いがあった。小豆は兵庫県産丹波大納言にすんなり決まった。他の品種を圧して文句なく美味しかったから。問題は砂糖だった。最終的に3案が残った。上白糖、グラニュー糖、和三盆のそれぞれで丹波大納言を炊き上げた試作。そのどれもが美味しかった。単価を考えれば、上白糖とグラニュー糖はほぼ同価格で、和三盆だけは別格の価格。それでも最終的には和三盆がセレクトされた。3種類の試作品を試食させていただいた。上白糖バージョンもグラニュー糖バージョンも美味しかったけれど、この二つに差はなかった。しかし、和三盆バージョンの美味しさは飛び抜けていた。この美味しさには驚いた。淡甘あずき煮の「淡甘」はうすあまと読ませる。和三盆の上品でほっこりした甘さを生かすネーミングにこだわった結果だ。

魅力たっぷり、可能性が広がるあずき煮

1袋に80グラム。糖度は45度。この量とスペックはあんこであれば、そう簡単にぺろりというわけにはいかないが、このあずき煮は開封して少しだけ、ひと口だけ食べようと思っても、すぐに食べられてしまうから不思議。名前の通り、うっすら甘く余計なものが入っていないので美味しいあずきを堪能できてしまう。おもてなしの最後のお甘としては、器にちょこんと盛るだけなので手間いらず。もてなされた人は、あ、あんこだと思ってひと口食べて「えっ?」と驚く場合もあるだろう。ちょっとしたサプライズもある。それは奇を衒ったからではなく、選び抜いたいい材料だけでシンプルに作り上げたから。しかし、これ、実は他のものとの組み合わせもいい。バターやヨーグルト、アイスなどどの相性も良いので付け加えておきます。


丹波大納言 淡甘あずき煮 45度
(1セット80g×5袋)

商品詳細
  • 原材料名:小豆(丹波大納言)(兵庫県産)、和三盆糖、食塩
  • 内容量:80g×5袋セット
  • 賞味期限:製造日より60日
  • 保存方法:冷暗所にて保存して下さい
  • アレルギー表示:該当なし
  • 販売価格(税込):3,780円(税抜:3,500円) ※送料別途
  • 製造元:株式会社大つる 
    大阪市生野区林寺6-3-10

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