堺谷徹宏の
グルマン365
ある夏の日のことです。アクアパッツアを作ろうと思ったら、ドライトマトがありませんでした。冷蔵庫にミニトマトが1パックあったので、赤道切りにしてクッキングシートを敷いたオーブンのトレーに並べ、オリーブオイルをふりかけ、庭で摘んだタイムを散らしました。そして、美味しくなれよと声をかけてしっかり余熱をかけたコンベクションオーブンの中へ。上の写真はそのときのものです。
200度で30分ほど加熱しましたが、水分の抜け具合が足りないようだったのでさらに20分ほど加熱。それでもあまり状態が変わらなかったので、トレーをオーブンから出して粗熱をとってから天日干しにしました。晴天で外気温は30度を超えていたと思います。風も適当に吹いていて、乾燥させるにはちょうどいい塩梅だと思いました。夕方まで約6時間干すと、ミニトマトはいい感じに縮んでいました。ひとつ味見をしてみました。酸味と甘味がいいバランスで凝縮されていて、なかなかの味わいでした。こうして出来上がった自家製ドライトマトを使って、アクアパッツアを作りました。ドライトマトは実にいい仕事をしてくれました。メイン素材にサワラを使い、料理自体も家族に好評でしたが、皆、取り分けた器の中に数個入っているドライトマトが一番美味しいとの評価。ちょっと複雑な気分でしたが、たくさん作ったドライトマトは冷蔵庫に保存して、サラダにトッピングしたり、肉のソースに絡めて使いました。ぼくは毎日の食をこんなふうにして楽しんでいます。
食べることは生きることにつながります。
ただ、空腹を満たすだけではなくて気持ちをも満たすようなそんな食のある生活をしたい。文化やトレンドに紐づいて、食べることによって時代が感じられたり、いい材料を使ってできあがっているものには美味しさとともに健康や安心、安全を感じたり、そんなことを意識しながら毎日を暮らしていきたい。60歳をすぎてそういう思いはいっそう強くなりました。このグルマン365では、ぼくが惚れ込み、味わって楽しかったものだけをご紹介していきます。みなさんの暮らしに少しでも彩りや豊かさ、そして幸せを運ぶことができれば何よりと思っています。
堺谷徹宏
堺谷徹宏 プロフィール
グルマン・ゴーズ・トゥ・トウキョウ株式会社代表取締役。1960年北海道生まれ。明治大学文学部を卒業後、出版界へ。サラリーマン向け雑誌やモノ・カタログ雑誌、女性誌、単行本などの編集を経て、食品の通販事業に携わる。バイヤーとして全国をまわり、地域産品を掘り起こしてカタログで紹介・販売するだけでなく、富裕層へ向けたオリジナル商品の開発と販売にも注力。後に、カタログやWEBページのコピー執筆やビジュアルディレクションを通して、購買客へ美味をわかりやすく楽しく伝えることを主眼に置き、フードデザイニストとして独立。バイヤー、コピーライターとしての技も磨きつつ、隠れた美味を探しに今日も東へ西へ。
●お仕事のご依頼などはメールにてお願いいたします。tetsu.sakaiya@gmail.com
バイヤー堺谷徹宏(さかいやてつひろ)の
おすすめ商品セレクション
たたきという料理は
1種類ではないらしい
この寒ぶりのたたきは実に美味しい。
「たたき」という料理名は肉や魚を炙る前に塩を表面にまぶして馴染ませるために手や包丁の腹で叩いた、あるいは炙った後に塩をまぶして同様に叩いたことからきているという説がある。高知県の藁焼きかつおのたたきに代表されるように太平洋側ではかつおをたたきとして調理する。かつおが上がらない日本海側でそれに匹敵する海のご馳走をということで、他社に先駆け、金沢・潮屋が考案したのがこのぶりのたたきだ。一方で細く刻んだり、ペーストぽくなるまで包丁でたたいたりしたものも「たたき」と呼ばれるが、前者との関連性は特にないらしい。要するに、塩をまぶしてぺんぺんしたものも、ぐちゃぐちゃに包丁でたたいて切り刻んだものもどっちも「たたき」ということ。今回は前者のぺんぺんのほうのたたきです。
冬も深まる頃の日本海では天候が荒れに荒れ、コロコロに太った天然寒ぶりが姿を現します。逸味潮屋が冬季限定でその寒ぶりの中でも10kg以上の大物を競り落とし、「天然寒ぶりのたたき」として数量限定にて製造しています。下処理には奥能登・塩田村の海水を汲み上げて作る希少な揚げ浜塩をふんだんに使用。脂も旨味も豊富で絶品!と、たたきファンにも愛され、すぐに欠品してしまうそうです。
天然寒ぶりの持つ底知れない
ポテンシャル
初めて食べたのはもうかれこれ10年以上前になる。当時担当していた富裕層向け通販カタログの冬のご馳走にどうかと石川県から提案されてきた商品だった。日本には四季折々の美味がたくさんあるけれど、冬場は年末年始に向けて全国からご馳走感MAXの商品が寄せられる。品揃えに困らないので、最初に提案を受けたときは県の担当者に「まずは試食会で試食しますね」と事務的な対応をした。キッチンスタジオのカウンターにずらりと並んだ華やかな美味オールスターズの中にあって、寒ぶりのたたきはそれはそれは大人しくしていた。それが良かったのかもしれない。地味すぎて逆に目立った。調理担当のスタイリストが、「このへんからいきますか」と言って手に取った。冷凍状態から少し経って半解凍の状態を見極めて彼女はたたきに包丁を入れた。
「ああ、ちょうどいい感じにとけています。このたたき、いい香りがします」
彼女はそう言って1本の柵をスライスし、試食用の白い丸皿に並べた。
「何もつけないでそのままひと口」
ぼくは肉でも魚でも野菜でもまずは素材をそのままいただくことにしている。初めてのときは余計に。余計な味はいらないから。ひと口食べて脂ののりが凄くて驚いた。冬の冷たい海の中で餌を食べて食べてコロコロに太って、脂もどうしようもなくのってのって、もう魚自身ではどうにもならないくらいになった頃に網に絡め取られた。全身がうっすらと自身の脂でコーティングされてしまって、もうこれは誰かに食べてもらわないことにはどうにもこうにも埒が明かない。自分の脂に溺れてしまいそうになっていたに違いない。要するに状態が良くて、野菜や果物では樹上完熟の状態。これは樹上完熟ならぬ、海中完熟。潮屋の職人がいい感じに塩をまぶし、手をかけすぎないように丁寧に炙って仕上げた。炙ることによって解凍した時に出る旨味たっぷりの肉汁の出口を塞いでいるのだ。
「いやあ、なんだこれ、すごい」
そんな声が聞こえてきた。ぼく自身も同様に呟いていた。即採用を決めた。
カタログに掲載した「天然寒ぶりのたたき」は大ヒット。通年扱えるものではないので、毎年の冬のカタログのレギュラー商品となった。
あの冬の味覚が忘れられず、金沢・逸味潮屋へ連絡を入れた。ぜひ、扱わせてほしいと。
「いやあ、ここのところ、天然がね、上がらないんですよ。海が暖かくなって」
「とれないんですか」
「ええ。でもね、今季は年末から寒くなって年明けから少しずつ上がり始めてるんです」
そして1月後半になっても寒さが続き、天然ものの量がある程度まとまり、「限定数なら」という条件で商談がまとまった。撮影用に送られてきた天然の寒ぶりをカルパッチョに仕立てて4、5年ぶりに食べた。寒ぶりのなめらかな肌の上で自身の脂にオリーブオイル、スダチの果汁と塩が溶け合う。舌が喜んでいる。白ワインがほしい。つけ合わせた野菜も美味しく感じる。野菜がたくさん食べられる。寒ぶりを主役にした素材の競演。食材同士がそれぞれに良さを引き出し合う。それを一緒に囲んでいる人たちが共有する。その共通の話題からさまざまな美味しい話が生まれ、宴が盛り上がっていく。こういうシーンを生み出せる美味はそう多くはないと思います。数に限りがあります。ぜひ、寒いうちに。
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